腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術における適切なメッシュの選択は?
ピックアップ論文 Heavyweight Mesh Is Superior to Lightweight Mesh in Laparo-endoscopic Inguinal Hernia Repair
A Meta-analysis and Trial Sequential Analysis of Randomized Controlled Trials
Wouter J. Bakker, MD, Hernia Clinic, Department of Surgery, Diakonessenhuis, Zeist, Utrecht, the Netherlands;
Annals of Surgery Volume 273, Number 5, May 2021
◯研究の背景
1990年台に入り、鼠径ヘルニア修復術においてはHeavyweight Mesh(HWM)に関連する合併症(メッシュの収縮、メッシュへの癒着、感染。慢性疼痛)が報告されたことをきっかけに、Lightweight Mesh(LWM)の開発に至った。重量を減量することで心配されるのは、そのメッシュが腹圧に耐えうる強度を有しているのかどうかである。鼠径ヘルニアにおいて必要なメッシュの強度は16N/cmとされ、一般に、HWMの抗張力は100N/cm以上(LWMでは16N/cm)を有し、1000mmHg以上の腹圧に耐えることができるため、明らかに過剰な抗張力と言える。一方でHWMは、上記の合併症のリスクともなっており、これらのことから、鼠蹊部切開法ではHWMからLWMの使用法に流れていった。しかし、解剖学的な位置関係もあってか腹腔鏡鼠径ヘルニア修復術では再発はおろか慢性疼痛もあまり発生しないとされる。
そこで、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術において、改めてHWM vs LWMによるアウトカムの差を比較した論文を紹介した。
◯方法・結果
Objectives 腹腔下鼠径ヘルニア修復術(TAPP or TEP)におけるLight weight mesh(LWM)またはHeavy weight mesh(HWM)の使用について、最新のエビデンスを提供すること。
Background LWMは、異物感や慢性疼痛を軽減する可能性がある。しかし、腹腔鏡下手術ではこれらはすでに稀であり、LWMは再発率が高くなることが懸念される。
Methods
Ho: 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術において、LWMとHWMで再発率に差はない。
P: 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を受ける患者
E: Light weight mesh(50g/m2)
C: Heavy weight mesh(>70g/m2)
O: 再発率、慢性疼痛、異物感
M: Meta-analysis
Study Selection
嵌頓や絞扼のない鼠径ヘルニアにおいて、LWM vs HWMを比較したRCTが対象
EMBASE, MEDLINE, Cochrane Librayが対象
Results
・12のRCTが含まれ、2909人の患者(LWM1490人 vsHWM1419人)が対象。
・観察期間は3-60カ月。
・LWMは再発リスクを増加(LWM 32/1571, HWM 13/1508; RR 2.21; CI 1.14-4.31)、特に非固定式メッシュを用いた直接鼠径ヘルニア(LWM 13/180, HWM 1/171; RR 7.27; CI 1.33-39.73)および大きなヘルニアでは再発リスクが増加。
・痛みの有無(LWM 123/1362、HWM 127/1277、RR 0.79、CI 0.52-1.20)、強い痛み(LWM 3/1226、HWM 9/1079、RR 0.38、CI 0.11-1.35)、異物感(LWM 100/1074、HWM 103/913、RR 0.94、CI 0.73-1.20)に関しては差がなかった。
Conclusion 鼠径ヘルニアの再発率を減少させるために、直接または大きな鼠径ヘルニアの腹腔鏡下手術にはHWMを使用すべきである。
◯考察
当初は、鼠径ヘルニアではLWMを使用するものと思っていましたが、特に腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術においては、LWM vs HWMに関しては結論が出ていなかったようです。さらに自分の予想に反してHWMの方にやや軍配が上がっており驚きの結果でした。
FINERに沿ってRQを評価
Feasiblityとしては、対象となった研究の人種に関する検討はなく、日本人への応用には注意が必要かと思います。
Noveltyには、過去のバイアスのかかったメタアナリシスに対し、それらを補正したメタアナリシスを発表することでしょうか。
Relevantとしては、メッシュの変更に関する合併症の有無やコストの影響と考えられます。
Methodsに関して
・Primary outcomeはrecurrenceのHardかつTrue outcomeと言えますが、Introductionでは、『もはや慢性疼痛は稀なので、再発をアウトカムにした』とありますが、そこは若干疑問(再発こそもはやまれ)なという印象を受けます。(慢性疼痛の発生率の記載なし。)
・研究デザインは再発をアウトカムとしており、systematic review/meta-analysisは最も信頼性の高いデザインと言えると思います。
・プロトコルは事前に登録
・スクリーニングは2名のreviewer
・再現できるレベルでのスクリーニング方法の提示
・Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionでここの研究のバイアスを評価
・GRADEシステムでの評価
上記の通り、Reporting guidelineを意識した、非常に丁寧な論文という印象を受けました。私自身はTAPPの際、メッシュは15×10cm, medium weight meshを好んで用いておりますが、確かに、ヘルニア門の大きな内鼠径ヘルニアでは、再発予防のための特別な注意が必要であるように思います。LWMを使うこともあり、術中は素材も柔らかく異物感は少なさそうな印象を受けますが、その後の外来で、特別、異物感が少ないというわけでもない(medium weightでもそれほど異物感の訴えはない)と感じています。HWMの使用に関して、今後の動向に注目が必要ですね。
コメントありがとうございます!参考にして直してみます^ ^ Trial sequential analysisはがっつり調べたんですが、全然理解できませんでした笑💦RCTの途中でサンプルサイズを再検討するときなどに使うようですが、この論文での使われ方や指標など、全然調べても出てこなかったですので、勉強会のテーマとしてもいいと思いました。疫学的なヘルニアの発症率など欧米の方が多いかなと思っていたのと、極端な話、ラパロの腹腔内の動画を見るだけでそれが日本人なのか外人なのか大体わかるくらい、コラーゲンの違いなのか、腹膜の伸縮性も、違う印象で、あえて人種のことに触れました!が、再発率は日本人のものとあまり変わらないので、必要ないかもしれませんね。GRADEシステムなんかも勉強したいです。2回目で、この論文扱うのも面白そうですね^ ^!