Mamoru Miyasaka
2022年1月
The Early (2009–2017) Experience With Robot-assisted Cholecystectomy in New York State
Ann Surg. 2021 Sep 1;274(3):e245-e252.
Hoffman AB, et al.
1. Department of Surgery, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, Buffalo, NY.
Background:ロボット支援下胆嚢摘出術(RAC)は腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)に比して、コスト・時間がかかるが、長期的な患者転帰に関するEvidenceがまだ不足している。大規模データでLCよりRACは合併症の発症率が高いと示す研究が複数ある一方で、初学者のロボット外科医を除いた研究ではRACは合併症がLCより少ないと報告されている。
Ho:RACとLCで患者転帰に差はない。
P:NY州でRACとLCを受けた患者(悪性腫瘍や先天性胆道拡張症などは除く)。
E/C:RAC/LCを受けた患者。
O:低侵襲胆摘におけるRACの利用率、合併症、胆管損傷に対する術後の二次的介入を調べる。
M:2009~2017年の間にNY州で実施された299,306人の低侵襲胆摘患者に関して、州全体のデータを用いて二変量及び多変量解析を施行。多変量解析のOutcomeの比較に、患者背景をPropensity score matchingで揃えた。
・患者背景は年齢、性別、人種、居住地、手術を受けるために移動した距離、保険の種類などと、病的肥満、糖尿病、高血圧、急性または慢性胆嚢炎、有症状胆石症などの併存疾患を検討。
・Primary Outcomeは胆管損傷、開腹移行、術中胆管造影、初回LC/RAC術後から1年以内の胆管に対する二次的介入(内視鏡、minor=胆管空腸吻合以外の外科的介入、major=胆管空腸吻合を含む外科的介入、の3つで分類)
・Secondary Outcomeは入院期間の中央値、術後30日以内の再入院または救急受診、術後30日間の術後転帰(急性膵炎、術後出血、胆石遺残、経皮的腹腔ドレナージ、敗血症、術後感染、心筋梗塞、肺炎、尿路感染、肺塞栓、深部静脈血栓、静脈カテーテル留置、輸血、非経口抗菌薬の使用、その他の消化器系術後合併症)。また、術後1年以内の腹壁瘢痕ヘルニアの発生率と、死亡率や術後1年までの累積入院費を調べた。
・2009~2017年にRACを1件でも行ったNY州の外科医を全て含んだ。
Results:299,306人中、1,118人(0.4%)がRACを受けた。以下、P<0.01のもの。
・LC群と比較し、RAC群は患者年齢が高く(51.4歳vs 49.4歳)、アフリカ系アメリカ人が多く(14.7% vs 10.2%)、手術のための移動、公的保険、術前の併存疾患(病的肥満、糖尿病、高血圧)の割合が高かった。
・RAC群は開腹移行が多く(4.9% vs 2.8%)、術中胆管造影が少なかった(6.2% vs 8.7%)。術後1年以内に胆管損傷と診断された割合が高かった(1.3% vs 0.4%)。胆管閉塞や術後胆管炎などの合併症は差が無かった。胆管損傷に伴い、内視鏡的介入、minorな外科的介入は差がないが、majorな外科的介入は多かった(0.6% vs 0.1%)。入院期間の中央値(3日 vs 1日)、再入院(7.3% vs 4.4%)および初回術後12ヶ月での病院での医療費も高かった。術後の急性膵炎、出血、経皮的腹腔ドレナージ、輸血、及び非経口抗菌薬の使用や、腹壁瘢痕ヘルニアにおいてもRAC群で有意に高かった。
・多変量解析でRAC群とLC群のオッズ比で有意に高いものとして、術後の胆管への二次的介入2.75、開腹移行1.69、30日間術後合併症率1.49、再入院1.40が挙げられた。
・RAC患者の入院費は大幅に高く(差額$16,561、P<0.01)、術後から12ヵ月の費用も高値であった(差額$25,373、P<0.01)。
・2012~2017年で年毎のLC・RACの合併症の割合は、LC群で減少傾向を示したが(P=0.03)、RAC群では減少傾向はなく、二群間の傾向に有意差はなかった。
・NY州でRACを施行している外科医の数は、2009年の2人から2017年には70人に増加した。
・NY州においてもRACの割合は低侵襲胆摘の1%未満で、主に大都市の病院で施行されている事が示された。RAC群で胆管損傷及び術後の二次的介入が多く、入院期間が長く、コストが高かったが、これらは1980年代後半~1990年代初頭の開腹胆摘からLCへの移行と類似している。
・合併症などの原因が、経験不足などの外科医の個人的要素か、トレーニングやコーチングシステムなどの組織的要素かは不明。RACにおける3Dは、胆管損傷を軽減しているわけではないようであった。開腹移行はRAC群で多く、出血、胆管視認困難、胆管損傷が主な理由であった。胆管造影がLCより行われない事が、胆管損傷の要因である可能性がある。
・入院期間が長いのは、他の手術同様に新しい手術だと各施設で慎重に経過観察した影響が考えられる。
Limitation: 2009年より前にロボット使用して行われたLCなど、一部でデータが誤ってコードされた可能性がある。また急性胆嚢炎の定義など病院毎のコード化のばらつきも課題。RACを新たに行った外科医の数はNY州に限定しており、他の州でトレーニングを積んできたかは不明。年毎の傾向を調べるには、初期のRACの数が少なすぎた。
Conclusion: NY州でRACを受けている患者はLC群より合併症率が高かった。術中/術後合併症に関連する患者、外科医、およびそのシステムの要因に対処し、蛍光胆道造影などの高度なimagingと合わせて安全な胆摘の戦略をRACに適用すると、患者転帰を改善する可能性がある。
私見
F: ビッグデータの登録、集積が必要ではあるが可能。
I/N:以前から同様の研究はあり、特になし。
E:問題なし。
R:RACとLCの様々な比較の報告の中で、RACをより慎重に行うべきであるという1つのデータにはなるか。
大規模なRACとLCの比較です。NY州全体でのデータでありその数は圧倒されますが、NYにおいてもRACは0.4%とまだまだ少ない事が示されています。また、胆管損傷や胆管空腸再建による二次的介入、入院費が高かった事が結果として出ており、RACの成績がより安定し低コストになっていくには、まだ時間がかかるでしょうか。開腹からLCへの移行よりは、鏡視下の視野展開の慣れやダブルコンソール等の教育システムにより移行が早く進むかなという面もありますが、2009~2017年のデータでもこの程度であり、開腹からLCに比して低侵襲という部分でのメリットが弱い事を考えると、進みはまだ遅い気がしました。ロボット手術の初期にRACは適しておらず、ロボットヘルニア修復をおススメすると何度か書かれていたのが印象的でした。腹腔鏡だとLCとTAPP(TEP)は、TAPPの方が後にやる事が多いような印象ですが、縫合など含めてロボットヘルニア修復にロボット手技におけるエッセンスが様々あるからなのでしょうか?特に理由は書かれていませんでしたが、今後様々なデータが出ると外科1-2年目の医師がロボット手術を行う上で、何が良いか…という議論が進かもしれませんね。